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壁
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作詞 羽楽音 |
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壁を壊せば、その先に通れると思ってた。
なのに今僕の目の前にあるものは、崖じゃないか。
覗きこめば吸い込まれそうな暗闇が怖くなり、
僕はとうとう逃げ出してしまった。
君自身が壁という存在だと気付いたのは、
その砕けた瓦礫の中に埋もれていた僕自身の欲の塊を目にした時だった。
ひんやりとした壁に寄りかかる心地よさを忘れ、
高い塀の上からみる景色を願いもせず、
ただ邪魔なものだからと取り除いた結果だった。
今更になって壁が僕を守ってくれていたんだと気付いたけど、
時間という洪水は僕の若さを押し流し、
孤独という北風が僕に容赦なく吹きつける。
だがそんな事より、あの場所に置き去りにしたあの欲の塊を、
君がどう見つめていたかだけが気がかりで、
痛みを感じられないほどの苦痛に襲われてしまう。
あの暗闇に感じた恐怖は、
きっとこの「気がかり」を紛らわそうとした、
自分自身の防衛反応だったとすら思える。
もう君という壁はいないのに。
もう君はただの瓦礫なのに。
崩れながら君は何を思っただろうか。
もしかしたら、人を好きになることの罪深さのような気がしてしまう。
僕らはよく似ていた。
姿形まで。
だからこそ、僕は怖いんだ。
君が僕に自分自身を重ね合わせて、罪を感じてしまうことが。
欲望を抱く事に恐怖を感じることが。
そして君は辛い壁の中に居やしないだろうか。
ちゃんと人を信じることができているだろうか。
そうさ、君自身が壁なんだ。
君自身が壁の中に埋もれないでくれ。
寄り添うことの素晴らしさを誰よりも知っているのは君だったじゃないか。
落書きされても胸を張って自分の道を歩んでいたじゃないか。
例えるなら僕は、
そんな君に憧れた一枚のキャンバスで。
いつも絵空事を胸に抱いては自分自身に落書きばかりしていた。
君は絵を描くのが上手だったね。
だから羨ましかった。
そして僕より大きかったね。
みんなが君を好きだと感じていた。
そんな君だから好きになったんだ。
・・・
ついこの間の話だけど、
やっと描きたい絵が見つかって。
モデルになりたいって言ってくれる人に巡り会えたんだ。
それは君じゃないし。
君とは違って時代遅れのラジオみたいな人だけど。
僕は幸せを感じているよ。
ただどうしても引きずっているのは、
君によく似た色の壁を街の中に見つけては、
今みたいな事を思い出してしまうこと。
自分自身に塗られた絵の具があの瓦礫から出来ていることに、
誇りと、申し訳なさで、胸がいっぱいになるんだ。
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