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悄然
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作詞 野馬知明 |
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ぽっかり空いた空洞に、
サラサラサラリ、雨の降る
ボンヤリ泛んだ視線から
仄かに馨る哀愁の香り
辺り一面、雑音、一際高く、
じっと見つめる瞳に潤いが宿り、
焦点合わず、ただ漠然と、呆然と、
どうして此処に、
何が故に立ち居て、
涙ハラハラ流すのか
ああ、我ひとり
生まれつきのボヘミアン
漂泊の魂に衝き動かされ流浪する
自分の頬に泪垂らすのは、自分だけ
不図、背後を眺めれば、
寒々とした皚々たる道の上に、
点々と足跡のみ黒く
真っ赤に紅潮した無毛のインカの心臓が、
居たたまれ無いような懺悔を強いられる
そう何を隠そう、我は放浪者
『放浪記』の林芙美子の生まれ変わり、
何の当てもなく、一紙半銭を手にして、
黄昏の長いプラットフォームに佇み
軈てやってくる夜汽車に
死へのノスタジアを夢見る
とっくに涙は枯れ果てた
どうせ天涯孤独の身
異郷の空で朽ち果てるとも
誰に気兼ねもせずに済む
片道切符、下着に挟み
タバコを吸って、酒を飲み
夜汽車の窓辺に崩折れる
ああ、一人の彷徨者
永劫に回帰する久遠の旅人
行けども行けども家郷定まらず
一抹の寂寥が後を追いかけ
友に情を求め、すぐその情を質に流し、
地果つるとも心安らかにならず、
一人ぽつねんと地平線を前にして俯くだけ
ああ、徘徊者は自由に呪われる
自由を求めて旅をつづけ、
何の束縛もない平原を憧憬とし、
木の実を食べ、獣肉を焼き、
勝手気ままに寝、そして起き、
あらゆる物に対して、何憚ることなく
与えられた受難の生を享楽する
どうせ私は独身者
甘美な愛執を独りのヴィオロン弾きのように
ただひたすらに求め、
『ハムレット』のホレーシオの憂鬱の衣を身に纏い、
風琴弾きのように、町から町へ、
行商する踊子のように、村から村へ、
今来た道を引き返す術も知らず、
畦を、径を、街道を、
独り悄然と去りゆこうとする
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