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バンジョーの琴線
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作詞 野馬知明 |
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吃驚したような晩春の陽ざし
人々は皆 渋面をつくり
アスファルトの遊歩道を流れ
そこにいたいけな女がひとり
灯ともし頃の名も知らぬ街並みを
街角から街角へボヘミアンのように流され
入り陽とともにネオンサインと夕陽
仇敵のようにいがみ合い、
その戦場のパノラマにひとり信号灯が活気を帯びる
妊婦のように重く孕んだ春の大気
群衆のひとりひとりを等しく圧す
ネオンサインのひとつひとつをぼかし
そこに薄幸な女が一人
石もて追われるユダヤ人のように
鹿の子斑の日陰を縫って歩く
群衆は皆傷心をいやす郷愁を持たず
浄瑠璃の操り人形のように群がり集まる
そのなかに繊弱な女が一人
宗教性の階段のイエスのように
足を踏まれ、頬を撃たれ、頭を殴られ、
首を絞められ、肩を小突かれ、
それでもなお、その都会の中を往く
商店のイリュミナシオンの中に
人々の捏人形のような不愛想な表情に
暮れなず陽光の末期の瞬きに
車と車の犇きの音に、
当然、在らねばならない何かを求めて
喪われつつある何かを捜し求めて
有るべきはずの或るものを追い求めて
群衆の中を唯一人
彷徨えるオランダ人のように
頼るべき係累もなく
事物の背後にある本質を求めて
何ものかに縋りつこうとして歩く
夕陽の溢れる都会の中
自動車のヘッドライトの光芒が交錯する町から町へ
恥じらいもなく涙を拭かずにいる女が一人
涙ながらに語るべき事柄を求めて歩く
ノヴァーリスの『青い花』の
ハインリヒ・フォン・オフターディンゲンのようにあてもなく
青い花を求めて歩く
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