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柿と謂ふ果物
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作詞 void |
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柿と謂ふ果物が好きでは無い
清涼感も無く舌に吸ひ付くやうな淫媚なる甘さ
春先の萌芽にも似て生暖く澱む馨り
木端を割るかのやうな若い果実の感觸
指間をしどけなく傳ふ熟柿の感觸
思ひ掛けない程無抵抗な実は
いたづらに冷たく滑らかな実は
季節の巡りに
薄らぐ姿を
上塗るやうに色付いて
俄雨の一滴を吸ひ込む礫のやうに
寝静まる空に覗く下弦のやうに
記憶の先つ方に煙る芳馨を
眠りに墜ちる狹間に見る色を
そつと語り出すのだ
表面の黒い斑點
ゲル狀の種周り
半透明の光澤に
無數の茶けた筋
脆い枝先に垂れ下がる実は
軒に吊るされて縮こまる実は
木枯しの風にも
明け方の霜にも
屈せず唯其所に在り
いたづらに照り付ける夕映のやうに
ふくらんだ赤色の巨星のやうに
辺りに染み込む暗い闇間を
傾いで転げる独楽のゆくへを
ぢつと待つてゐるのだ
其れだから
柿と謂ふ果物が好きでは無いのだ
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