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冬子
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作詞 oreneko |
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僕がまだ小学生だったころ
隣の橋田さんの家によく
遊びに来ていた女の子
確か名前は冬子ちゃん
冬に産まれたわけじゃないのに
本当は向日葵が好きなのに
そんなことをいつも愚痴ってた
でもお母さんは笑ってた
橋田さんの家のマキちゃんと
とても仲良しだった冬子ちゃん
きっかけは何なのか忘れたが
いつしか一緒に遊ぶようになる
夕方の公園の砂場で
僕は砂山作りを始めて
マキちゃんはそれを眺めてて
けど冬子ちゃんは夕日を見てた
それがいつも通りの日常で
続くことを疑いもしないで
ある日マキちゃんが旅行に行った
それでも僕らは二人で遊んだ
冬子ちゃんは読書家で
いつも図書室で本を借りてた
好きな本は何って聞いてみた
冬子ちゃんの目の色が変わった
名前しか知らない作家たち
けど彼女は凄く楽しそうで
ランドセルからノート取り出して
見せてあげると 僕にささやいた
二人だけの秘密にしようって
そんな言葉にとてもドキドキして
冬子ちゃんのノートの中は
遊園地みたいにキラキラだった
そこに描いてあった自作の小説
あれはどんな話だったっけ?
好きな人ほど早く死んでしまう
太宰治も芥川も
「神様は善い人ほど早く欲しがるのね。」
そんなセリフが
忘れられなくて
それは唐突に訪れてしまった
カレンダーの日付も覚えてない
けど「だから冬は嫌いなの」って
寂しそうな横顔を覚えてる
冬子ちゃんは一人で泣いていた
「マキちゃんと喧嘩をしてしまった。
でもお母さんは笑ってた。」
冬子ちゃんの話も聞かないで
隣にいる見知らぬ男と
またいつものようにキスをして
まだ子供だった僕たちには
どうしようもない 思い出話
雪が溶けだし花が咲くように
いつか僕は中学生になった
マキちゃんとは遊ばなくなってた
冬子ちゃんとも気まずくなってた
ある日風の便りで耳にした
冬子ちゃんは転校したらしい
あの頃あんな近くに居たのに
今じゃもうどこに居るか分からない
冬に産まれたわけじゃないのに
本当は向日葵が好きなのに
そんなことをいつも愚痴ってた
冬子ちゃんは今何してますか
冬子ちゃん
「神様は善い人ほど早く欲しがるのね。」
大人になった僕は今でも
君の言葉が忘れられない
そんなセリフを今の君は
忘れていることを 切に願う
太宰のように芥川のように
ならないことを 切に願う
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