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歌詞投稿 / 自作歌詞

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ジミーに捧ぐ
作詞 野馬知明
綿飴のような雪の降りしきる日、1931年2月8日の朝、
あの忌まわしい世界大恐慌の年、
インディアナ州マリオン、イースト4番街、グリーン、ゲイブルス、アパートメント、
質素なコテージの一室で、貴方は生を享けた

貴方が9歳の年に、貴方の母は貴方に人生の悲しさを教えた
神に召され、忽然と母は逝った
貴方の母はなぜに神のもとへ往かねばならなかったのか
母なき幼子よ、無口な孤独の衣を纏った少年よ
その数少ない笑いの中に、どことなくやるせない翳を宿すは
天国にいる母を想うためか

父を軍隊にとられた孤児よ
フェアモントの農場に、その切々たる憂いは
広大な畑に青々とした芽が吹き出た頃に
陽の光とともに吸い込まれたか

貴方はピアノを奏でた
トランペットを口に含み、ドラムを狂気のように叩き続けた
でもヴァイオリンに手を触れなかったのはなぜ
母から贈られた想い出のヴァイオリン
優しく手を取って教えられたヴァイオリン
それはかつての悲しみを忘れるために
永遠に閉ざされた美しかりし追憶のゆえに
決して手にすることのできない楽器

貴方の精神の最も高揚した頃
類まれな天稟と努力は群を抜いた
天才児の異常な精神の集中は止まない
スポーツ、舞台、自動車・・・
貴方の自動車のエンジン音は
母なくして生きざるを得ない孤独を掻き立て
フェアモントのあらゆる辻々を
永遠に失われた母の慈しみを求め
様々な通りを突き抜けてゆく
神童と噂された少年の
乱行による学業成績の低下
貴方を養育するマーカスおじさんは、
貴方に愛を語り、不意に言葉を途切らせる
その時あなたは見た
揺蕩うパイプの煙に隠された
生涯で得難い最良の理解者の
その目の奥に燻り光る嘆きに濡れた一筋の輝きを
貴方は彼を愛した
彼も貴方を愛した
でも、貴方は決して満たされることはなかった

十年ぶりの父との生活
父と子に戦争は断裂だけを齎した
サンタ・モニカの新しい母は
十年間愛し続けた生みの母=ミルドレッドへの貴方の追懐には勝てない
貴方は同時に二人の母を愛すことはできなかった
愛を断たれた、愛を永遠の中に螺鈿のように閉じ込めた貴方の魂は
とうとう演劇の中に宿命的に昇華した

貴方の迸る命の赫々たる燃焼は
いとけなく、愛の汚れを知らず
人々の心の琴線を爪弾く
貴方の清冽な泉のような
滾々と尽きることのない無窮の才能
母への久遠の愛に裏打ちされた無垢な人間性
それは貴方をハリウッドへと導き
かけがえのない伯楽を得る

かつてあなたを子犬のごとくあしらった
虚飾に満ちたハリウッド
銀幕にたかる雀たちは口々に叫ぶ
――尊敬すべき奇跡的新人!
――創造された偉大なる芸術俳優!
――二十年に一人の天才的俳優!

でもひと時として貴方の胸は満たされない
あれほど欲した名声ではあったが、
貴方は安穏な幸福に浸ることはできなかった
母を失ったことが、
貴方の心に空洞を作り
物事に熱中することで忘れようとしても
不図、重い愛の哀惜の化石に触れるとき、
その空洞にいたたまれないほど寂しい風が吹き抜ける
至純な愛の思い出が、穢れた愛を避けさせ
かたくなに心の扉を閉じさせる
一つの愛すらも受け入れられない若者
絶えず自分を何物かに駆り立てずにはいられない孤独の魂
あまりにも純粋なるがゆえに・・・

だが、ある日運命の女性が、
光に溢れた春の日の微風のように
貴方の眼前に現れた乙女
その名は、ピア・アンジェリ
唯一つの水晶のようないたいけな恋物語
陽炎のように果敢ない恋
貴方の心を溶かした生身の天使
初めて亡き母を忘れさせた娘
だが、無二の愛の幼生は崩れた
1954年11月の末
ピアは他の男に嫁いだ
結婚式の教会の外に一人佇み
昔日の思い出にはらはらと涙を流し
崇高な情景の崩壊に愛の形見を喪う
頬を撃つ冷たい風のなかで
枯れ葉の舞に足を絡ませながら
古い愛用のオートバイにしがみつき
憚りもなく声をしのんでむせび泣く
唯一つの至上の宝石
たった一つの生きた愛
熱い涙がオートバイのシートを濡らす
どうせ得られないものならば、
どうして心に灯をつけたのか
全ての愛の偶像、全ての憧憬
それらが悉く地に堕ちた
愛を失った貴方はスピードに挑む
死への恐怖だけが心を癒す
風景が一瞬のうちに遠のき、
風圧が胸を圧すとき
現在は過去に入り交じり
甘い郷愁が涸れ果てた涙を誘う
侵すことのできない母への慕情が
ひと時の気まぐれで穢されるのを恐れ
あれほど恋を避けて通ってきたのに
どうして青春を強烈に甦らせたのか
埃だらけのつなぎのズボンに革ジャンパー
いつ梳いたともわからないボサボサの髪
貴方にとって愛は、いつも
永遠に遠ざかって行くことの代名詞
ピアはいつしか母を押しのけていた
母に変わるべきいとしい愛の対象
貴方の心に浸透してきたとき
ピアは忽然と去った
恰も14年前の母のように
しかも神ではなく他の男へ

ニューヨークの下町を彷徨する孤独な魂
貴方の生活は日に日に荒む
床に茣蓙を布いて眠り
家具のない部屋に酒瓶を転がす
ああ、ピア、ピア、ピア・・・
物静かなやさしさ、光に満ちた瞳、楚々たる容姿

貴方は叫ぶピアの夫に
「わが愛を彼女に与えたまえ」
とめどなく涙があふれ
嗚咽をこらえた涙声が悲しみに消え
声にならない絶叫が闇を裂き
轟轟たるエンジンの響きのみが残る

貴方の表情は暗示する
やりどころのない寂しさと悲しみの影
愁いに沈んだ瞳と
青黒い無精ひげが内心の寂しさを物語る
貴方は歩く、どこへ?
極まりなく虐げられた愛のない人生
純白の雪のように純潔で
感受性の強い、訴求力に溢れた魂
貴方はブルーの瞳を投げかける
一体、何を求めて?
貴方は傷ついた心で何かを求める
母を?ピアを?神を?

貴方は何の前触れもなく死んだ
たった24歳と8か月で
1955年9月30日午後5時59分
銀色のポルシェ・スパイダー23を駆って
カリフォルニアのパソ・ローブルの近く
ベーカーフィールド466号国道の交差点
――楽しかりし時代はもはや彼方に過ぎ去ってしまった
それは貴方の末期の言葉
その時、貴方の胸に去来したものは何?
沈痛な愛執? 
ピアへの断ち切れない慕情?
それとも演技への飽くなき願望?

他の人が、十人ぐらい集まらなければ生きられないような青春を貴方は生きた
真昼間の箒星のように
貴方は最期に大きく光芒を放って消えた
ブラックホールの彼方に

貴方の眠るパーク・セミトリ―の土に
今日も雨が降る
幾たりかの恋人たちが、遠巻きに、
一つの傘の下に寄り添って通り過ぎる
貴方はもう二度と還ってくることはない
そして貴方は、永久に年を取ることもない
貴方の命に比べ、貴方の人生は何と荒んでいたか
貴方は一度でも人を愛し、人に愛されたことがあったか
貴方の生涯は愛に餓えた歴史
貴方の死は私の心の中の貴方に永遠の生命を齎した
しかし、それがあの夥しい貴方の孤独と比べて何の慰みになろう
永遠の恋人、ジェームズ・ヴァイロン・ディーン
貴方の孤独に口づけします

本作品の著作権は作詞者に帰属します。
公開日
2022/01/14
ジャンル
詩(ポエム)
カテゴリ
その他
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