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「恋愛狂想曲」第三楽章・第一小節 
作詞 野馬知明
「恋愛狂想曲」第三楽章・第一小節 

造次顛沛に加工されし鋼は脆弱、累卵の危うさ
早成の名誉はトランプの城、砂上の楼閣、やがて、
絢爛たる夜会は鍵鑰の内に遠のき、
華麗なる音楽会は巌頭の彼方に去る
燕尾服もかぐわしい香水の馨を忘れ、
翹楚の才能を有したはずの脳漿も、
今は陥穽に陥れた女の嬌声が渦巻くのみ

一年たって次の秋、
紆余曲折して円転滑脱の女もなすすべなし
男は女の許を去る敗北者
自分勝手に女の心に火をつけといて
その清水の様な至純の愛を烏有に帰し、
涙に暮れる女になにも告げずに消え去る消防夫
残されたのは転落の紅蓮の炎に包まれ逃げる遁走曲
一度浮世の甘ったるい蜜の味を知った男は、
二度と再び辛酸を舐めたがらない憶病な小熊

石に漱ぎ流れに枕し、羹に懲りて膾を吹く
過去の名声の陽炎に浸り、水っぽい酒に浸る
嘗て天井も知らずに高々と高翔した独立不羈も
不撓不屈、堅忍不抜の硬い精神もどこへやら
今は海綿のように軟弱な精神に変り果て
慚愧もなく、場末の酒場
借金のかたに売女の情夫
接唇を売って酒代を得
楽譜にカタストロフィーを打印す

隔靴掻痒、外にも出られず
愛しい男の行方もわからず
女は悲嘆にくれる籠の鳥
だがしかし、若い女は秋の空
巷に流布する人のうわさも七十五日
アモーレ・ミーオも七十五日
質種流れる三か月
女はシルレルの詩句にうつつをぬかす
手蔓芋蔓の親父の婿世話
富豪の伯爵次男坊、名はジョセフ
白皙の優柔不断の令息は詩人肌
時の重みに耐えられぬ女は軽佻浮薄の尻軽娘
婿の額に地所の広さ見
「はい、はい」の二つ返事で嫁に行く
婿はサディスト腑抜けの男
夜ごと凌辱の限りをつくし、
女は幻滅、ひそかに思うはかの男の消息
伯爵夫人は有閑マダム
男の捜索に炭のように身を焦がすボヴァリー夫人
遠い昔に捨てた恋は巷の何処か
下男は探す 場末の酒場
ついに見つけたピアノ弾き
女は喜色満面カメレオン
月に祈る昔日の甘美な恋の甦り

汚れ切った街角のガス灯に
ピンクのショールなびかせて
向かうは場末の酒場の連なる裏通り
零落、落魄、変わり果てたは男の姿 
変わらないのは女の泪
酒場のはねたその後で
二人は酒場の薄暗い蝋燭の下で語合う
・・・貴方は卑怯な流れ星、私の愛が輝いて
一際夜空に瞬くと、手も心も届かない
巷の何処かへ流れて消えた薄情男
それから私は火の見櫓
一人の男の酩酊の酒にまみれて燻った自暴自棄の炎を探そうと涙の海の中
やっと会えた喜びは神の来駕に似て十字
胸が張り裂けんばかりのうれしさ
ねえ、曙光のみえるまで仲睦まじくとの私の哀訴
どうか、聞いて下さいな。
いやとは言わずに、どうぞお願い私の心の掏摸者

一度乖離した婚約者
縒りを戻すは女の未練
自尊心も投げ捨てた一途な思い
以心伝心、男は女の意気込みに
怖気づいたわけではないが、
邯鄲の夢、甘美な懐旧あっての淫蕩
破鏡再び照らさず、覆水盆に返らず
それにひきかえ女の言葉は有閑ゆえの愛のささやき
嗚呼、男は女に言われるまでもなく
愛しい女を未だ愛している
全てをなげうち真情を切々と披歴する
女の情けにほだされないのは自己欺瞞ではない
燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんやと
女に仄めかし自尊心を守るためでもない
ただ、過去をそのままに傷つけたくないため
・・・いとしいウエヌス、僕のアフロディティ、
わたしは今でも深くあなたを愛している。
でも、それは、時の重味で今は化石。
形はそっくりそのままでも、それを動かす命運はない。
しかも私には内縁の売女の妻がある。
どんな男と女の恋愛も、男の方に女を犯す気がなければ続かない。
チャイコフスキーが最後まで、メック夫人に会わなかったのはそのため。
あなたも、メック夫人も美しく理想の女性であり過ぎた。
私の崇拝の心は、貴方に接吻することすられも許さない。
私の化石は生気を失い、水気も失って甦ることなく金剛不壊のまま。
鉄砲で威嚇されても、断じてあなたを汚すことはできない。
そう、全ては消沈、湖の底。
冷え切っているけれど。それゆえ新鮮、鮮明。

厭離穢土、男は泥酔、隠遁者。
酒精の世界に埋もれて、身も心も酒臭い。
・・・いいえ、私はあなたの胸に恋い焦がれているのではありません。
明日の夜会に招待しようと、ただそれだけの伝書鳩。
今一度、どうか嘗ての名声を。
塵埃に埋もれるのは才能の持ち腐れ、音楽界の損失、聴衆の不幸。
どうか、この招待状を持参して、このお金で服を新調して、必ずいらしてください。

行雲流水、男は強い意志もなく、
貞操の蹣跚を諦めた女の愁眉に、
自家撞着を承知の上で承諾する

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歌詞タイトル 「恋愛狂想曲」第三楽章・第一小節 
公開日 2022/05/16
ジャンル その他
カテゴリ 恋愛
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