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勇者の経験値
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作詞 JINRO |
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大の大人が真っ昼間に風呂場の中で歌ってた。
勇者の経験値は、そうたいしたもんじゃない。
音なんてまるで取れてない、声なんてろくに聞けたもんじゃない。
それなのに僕は黙って真夏の窓を開け放した。
こいつはどこでどんな正義の味方を倒してきたんだろう。
大の大人が調子外れの、大声で、鼻歌交じりに叫んでた。
勇者の経験値が、どれだけの足しになるんだろう。
どれだけ倒したって、なんの役にもたちゃしない。
そんなことはない! 僕は小さく叫んでいた。
震える手のひら、汗ばんだ拳を握り締めた。
そんなことはない! 誰だって憧れて夢を見て。
勇者の経験値なんて、ろくなもんじゃない。
何度倒したって、何も残りゃしない。
大の大人が風呂場のタイルに残響を響かせて歌ってた。
歌い疲れて喉も枯れて果てていたのにそれでも、小さく泣き叫び続けていた。
大の大人が僅かに残った最後の声で。
正義の味方が最後の最後に殺しに来てくれるまで。
大の大人は今日も汗ばんで、ろくでもない経験値を必死に掻き集めている。
それは何のためだっけ。そう僕のため。
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