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ある夜の出来事
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作詞 いかたこ |
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砂漠に行商人がいた
月は照らす
少女が砂に埋もれていた
気を失い横たわっている
月は照らす
風が吹く
風が砂を払いのける
月は照らす
少女を月は照らす
行商人は少女を見つけた
月は照らす
行商人はラクダを降り
慌てて駆け寄り声をかけた
月は照らす
少女は答えない
月は照らす
行商人は旅袋から筒を取り出し
わずかに残る水を与えた
月は照らす
少女は目を開けない
月は照らす
行商人はナイフを手にし
連れていたラクダの喉元を割いた
月は照らす
血を少女に与えた
月は照らす
少女は咳き込んだ
月は照らす
そして目を開けた
月は照らす
行商人は微笑んだ
少女も軽く微笑んだ
月は照らす
ありがとう、と
弱々しく唇が動いた
月は照らす
少女は再び目を閉じる
月は照らす
そして二度と目を開けない
月は照らす
行商人は泣いた
月は照らす
行商人は別のラクダにまたがり
月は照らす
その場を後にした
月は照らす
赤く染まる砂の上
月は照らす
少女とラクダが横たわる
月は照らす
寄り添うように横たわる
月は照らす
二つの骸を月は照らす
一瞬の命を与えたものと
一瞬の命を貰ったものとして
月は照らす
風が吹く
風が二つの骸を砂に埋める
月は照らす
ある夜の出来事だった
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