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最後の朝
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作詞 山琴 |
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ふたりでむかえた静かな朝は
ひとりでいるときよりも
せつなく胸をしめつけた
きみの瞳がなみだに濡れる
きっとおなじことを考えた
ふるえる指先を
ぼくのそれに重ねてうつむいた
抱きしめようか
抱きしめてもいいのかな
壊れてしまわないかな
『最後だから』なんて
自分の理性に言い訳
いつの間にか
指の上のちいさな重みが消えていた
きみのなみだも微かな笑みに
ぼくのこころは大きく軋んだ
壊れてしまうのは
きみじゃなくてぼくだった
『まだ逝かないで』
唇だけで刻んだ言葉
微笑むきみはぼくを
驚くほど力強く抱きしめた
耳もとでささやく言葉は
『ありがとう』
嗚咽をこぼして泣いていた
必死につかむぼくの手を
きみはするりと抜け出して
『じゃあね』と
声に出さずに云う
なにも云えないぼくから
目を離して背を向ける
そのまま玄関に向かう足取りは
ふわふわしているように見えた
しばらくしてぼくは
遠くで玄関の閉まる音を聞いた
なにも云えなかった
引き止めることもできなかった
最後に愛をあげることも
ちいさな嘘をあげることも
あとどれくらいできみは逝くのかな
さようなら、さようなら。
さようなら……
きっと出逢うべきじゃなかった
もう会えないきみへ
今朝の想い出を。
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