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蒼かった世界
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作詞 human |
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私にだって若い頃はあった
それは 青春という時代だ
「過ちも思い出になる」と
達観する事を達観して
自惚れていた
あの蒼かった時代。
そんな私にも ある日突然寿命が告げられた
もう治る余地は無いらしい
泣き崩れてくれた家族
最後に顔を見に来てくれた友人達
何も言えない自分は
言いたい事がありすぎるからだと自覚していた
見舞いに来る友人たちのほとんどには小指がない
中には薬指もない奴だっている。
僕はそういう世界で育ってきた
人を傷つけ
人をあざけり
人から奪う
それを職とし 生きがいとしてきた
今自分が死ぬという立場になって
果たしてそうした自らが与えてきた苦しみは
正しかったのかと振り返る
私が生き埋めにしたあいつの家族は
同じように泣き崩れたのだろう
ぶつけようのない悲しみが
涙腺から溢れてきたのが 目に浮かぶ
病室のベッドからは木枯らしが吹いて
また葉っぱが一枚落ちたのが見えた
私の心のように 荒んでいるのだろう
先生が置いていった レントゲンに目をやる
大きすぎる腫瘍で ほとんどの部分が黒くなっていた
私の心のように 黒ずんでいるのだろう
レントゲンを手にとって まだ白い部分から
世界を俯瞰してみた
なんと美しい事だろう
なんて蒼い世界なのだろう
年をとって 蒼くなくなったのは
環境ではなく 自らの心だったのだ
卑怯な手や 姑息な手段を覚え
社会のせいにして逃げていた
こうして隣でずっと看病してくれている
妻や家族の存在にも気付かずに。
思いやりにも気付かずに。
そしてその晩 私は最後のお願いをした
あるものを買ってきてほしいと頼んだのだ
翌日の 最後のあがきの 手術に向けて。
そうして
私は なぜか 一命を取り留めた
助かったのだ。
奇跡としか言いようがないと 誰もが口をそろえた
だが 私は治ると疑わなかった。
なぜ?と誰もが口をそろえる
私は決まって あの時頼んだ蒼いマジックを持ち出す
そしてそれで塗りつぶされた レントゲンを指さして こう言う
「まだまだ、私にも蒼い世界があったんだ」
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