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犬と猿
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作詞 チキン・ボーイ |
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昔あるところに二人の男がいた
ある一人の男は剣を握れば天をも切り裂く力の持ち主だった
名を猿(エテ)と申した
もう一人の男は筆を握れば 彼が描いた文字は空を舞い詠いだす力の持ち主だった
名を犬(ケン)と申した
二人の絆は幼い頃より深かった
そんなある日 猿は三つ山を越えたところに悪霊が住んでいると聞いた
そしてその悪霊を退治しようと幾人の村の若人が消えていった
それを聞いた猿は一寸の間を与えず出て行った
犬はさほど心配せず見送った 止めることも考えず…
しかし猿は戻ってこなかった 何年も何年も…
月日は流れた 犬は都の宮中で働くことになり上京するため歩いていたある日
草むらの中から一匹の猛虎が狂ったように犬に襲ってきた
しかしすぐに草むらに戻り身を隠した
犬が様子を見てみると そこには姿かたちは違えど長年付き添った仲の犬には草むらの中の声が猿のものだと分かった
尋ねてみると口からはよだれを垂らし四つんばいで生活をしているが 眼だけは昔と変わらない真っ直ぐものだった
それが猿のものだと分かると犬はまるで友と語るかのように気軽に尋ねた
そして餓虎も昔と変わらない勇ましい口調で語った
あの夜 悪霊の住む山に行ったが悪霊の姿は何処にも無かった
気落ちし帰ろうとしたときだった 急に目の前が暗くなった
気付けば身体中に毛が生え 牙と爪は鋭く尖り兎など一噛みで絶命させるものだった
しかし心は人間のままだった
それ故苦しかった この現実受け止められなかった 発狂した 夢だと信じたかった
なぜならもう二度と好きな女も抱けず 友と語り合うことも出来ず 親とは二度と会えぬそんな身になってしまったからだ
苦痛以外のなんにでもなかった 死を幾度と無く望んだ
しかし人生がどんなに過酷だろうと苦しかろうと 人であろうと獣であろうと
やがてそれに慣れる そして今オレは虎であることを疑わなくなった
これが幸せでなくなんという
だが今オレはかつての友をかみ殺そうとした 恐ろしい
そう語りしばしの沈黙が続いた
オレを殺してくれ
犬は一瞬青冷めた
元の姿にはもう戻らないだろう こんな姿を幸せと思う俺をどうか殺してくれ
もう人としての心は残り少ない これはある一人の友からの最後の願いだ
猿のまっすぐな眼が次第に霞む 犬の眼も霞む
犬は震えながら首を横に何度も振る
僕らは友達だろ そんな旧友に剣を向けることなど出来ない
オレはすでにお前の知っている猿ではない 一匹の狂った餓虎だ
早くしなければまたオレはお前を何のためらいも無くかみ殺してしまう
剣を抜け そして俺を殺せ わからぬか その方がオレは幸せなのだ
生物の決して避けられぬ宿命から解き放たれたいのだ
犬は震えた手で宙にこう描いた
犬(イヌ)と猿(サル)はここにてしばし別れ眠る
剣を抜き自分の3倍もある獣の胸を一突きで貫いた
虎は叫び声ひとつ上げず倒れた 幸せそうに消えていった
すぐに自分の所行に後悔した 唯一無二の友を自らの手で殺めたのだ
そして男は天まで届く声で 泣いた 鳴いた 哭いた
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