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「恋愛狂想曲」第三楽章・第二小節
作詞 野馬知明
「恋愛狂想曲」第三楽章・第二小節

夜会は盛大、暇人とカネの集まり、
鬱陶しいのは女どものお喋り
捲土重来 傍若無人の一張羅
逼塞された生活よりにじみ出た
肯綮に中る諧謔、嫌味の辛辣さ
荒唐無稽、男は出鱈目狂想曲
異口同音、昔は悋気、今は嫌気を
一身に集めて夜会の真っ最中
礼もせず唾棄して帰る大理石の段

女は再び会いに行く夕餉の下町
たどり着いた下宿屋もあの酒場も
既にもぬけの殻、身のない貝殻
手だてをなくし女は落胆浩嘆す
下宿屋の太った主婦に尋ねても
酒場のやせた主人に尋ねてみても
・・・どこへ行ったか知りませんか?
・・・あなたこそ、どこへ行ったか知りませんか?
「あの男には借金がしこたまあるんです」の鸚鵡返し。

女は婉容に憂鬱宿し
夜ごと夫を拒み泣く
夫婦の中は一触即発 不倶戴天
夫婦とは名ばかりの羊頭狗肉

眷恋の情 真夏の落日
眩惑の情 砂漠の湧水
慊焉の情 一夜の降雪
昏迷の情 湖水の波紋  

ある日、下女のささやき
かの男をその目で見た
みじめにも落魄零落ピアニスト
酒代のためにタダ働きの酒場の即興作曲家
馬鈴薯傍ら片手に芋焼酎
項垂れて弾くその姿
陰鬱、憂鬱、惨憺たり
女は即座に会いに行く
憐憫たれても救い得ず
慰藉を尽くし、夜更けまで
惑乱しては落涙す
けんもほろろ自暴自棄
取り付く島もない男
女は涔涔と崩折れ泣く
・・・どうか聞いてわたしの言葉、孅弱なのは私の心、愚昧な魂、
この愁眉には、ひとかけらの偽りも。
・・・縁なき衆生は度し難し、もう二度とわたしの前に現れないで。
人間万事塞翁が馬、貴方には不幸この上もなく見えても、
あなたにとってのその不幸が却って私には幸福。
ソクラテスいわく「最も熱烈なる恋愛は、最も冷たき終末を有す」
この言葉をあなたも信ずるべき。
・・・いや、いやっ。そんな言葉は信じられない。
私の胸は癒されることなくて、いまだにこんなに熱く燃えている。
私の泪は、間欠泉の熱湯の様に熱い。
私の泪が、凍結するのは、夫のために流す時、夫が私を虐待するとき。
シラーいわく「愛の先なき人生は無価値なり」
どうか私に少しでも愛憐の情があるのなら、
この紹介状を持って、父の友人の名のある作曲家の屋敷へ。
楽聖への夢を放擲せずに彼に曲を聞かせて。

ピアノは人生の音楽堂
酔生夢死は酒精の人生
女は男に身を捧げたい
でもそこに何物かが蟠踞する
それは自分がすでに人妻だからか
それとも男が妻帯者だからか
自分の慕情が美徳の蹣跚だからか
本当は男を愛していないからなのか
いやいや、決してそんなことはない
ヴェールで隠蔽した心の底も
白い手袋で覆った指先の動きも
男に向けられない視線の奥も、
それを静止させる主なくて
ぶらん、ぶらんと宙に舞う
肉魂は酒に、心は男に酔う
傾けたベネチアングラスに男の寂しげな横顔が
注ぐ酒瓶の澱みに男の想いが
飲む酒も酒精はみな男に奪われる
どうしても酔うことができない
どうしても酒に飲まれることができない
酔って酒に飲まれて男の腕に
正体もなく崩折れることができない
女は不意に瞳を潤ませる
ああ、女は男を愛している
不即不離、この情愛
結婚しているから愛せないというのは
女の姑息な牽強付会
たまらなく愛されたいという独白
だが、別離も望むこの裏腹な心
一体なにがそうさせるのか、女には分からない
・・・庇を貸して母屋を取られるとの俚諺、私と会うのは貴方のためによくない。
貴方の真実の男性は貴方の夫、ただ一人、
それが女の生きる道、人間の歩む道、禽獣の道は断つのが道理。
・・・ああ、あげます。みんなあげます。わたしのすべてをあなたにあげます。
私の心も、私の自尊心も。これは単なる行為でも、火遊びでもない。
だからその諺も当てはまらない。わたしは母屋を取られてもいい。
好意を超越した愛情なのだから。
ツルゲーネフいわく「愛は死よりも、死の恐怖よりも強い」
これほどまで言っても、どうしてあなたの心は融けない。
もし私の言うことを聞いてくれないのなら、私は死を持って報います。

男は周章狼狽、暫時、亡羊の嘆
結局、女の申し出を受諾する。
嬉々として嬉しそうに去る女
月晦のもと、そこに女の愛の陶酔
昳麗の立ち去った酒場に咲く空華
ああ、場末の酒場でちびちびと
黄色い酒を舌の先、嘗め啜るように飲み込んで
五臓六腑をわびしげに酒精の馨で慰める
男は思う、人生は酔生夢死に過ぎないのか
それともゲーテの言うように、
「現在は魅力のある女神」なのかと
はらわたがちくりと痛む
男の人生もただいたずらに歴史の流れを濁すのみか
ああ、一個の人の子よ、薄暗き電燈の下、
黄ばんだ光に歪んだ人生
杯持つ手が震えてやまず

本作品の著作権は作詞者に帰属します。
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歌詞タイトル 「恋愛狂想曲」第三楽章・第二小節
公開日 2022/05/17
ジャンル その他
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