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「恋愛狂想曲」第二楽章・第五小節
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作詞 野馬知明 |
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「恋愛狂想曲」第二楽章・第五小節
春風駘蕩、なだらかな丘へピクニック
馬肥の丘に忘れな草を見出し、
・・・わたしを忘れないでね
とその草を差し出す女の瞳に、
男の愛と芸術の相克の悶えが映る。
女は花を摘みながらギリシャ神話に出てくる菫の物語を囁く。
・・・あるとき、ヴィーナスが、踊っている一群の乙女を見て、キューピッドにこう尋ねたの。
「あの乙女たちとわたしとどちらが美しい?」って。
ところがキューピッドは、乙女たちの控え目な美しさにひかれていた矢先なものだから、正直に、
「乙女たちの方が美しい」と答えてしまったの。
たちまち機嫌を損ねたヴィーナスは、乙女たちを紫になるまで打擲したのよ。
そこで、キューピッドは気の毒に思って乙女たちを菫の花にしたの。だから、菫の花は紫色なのよ。
・・・馬鹿らしい。それは唯の神話。現実と神話を混同してはいけない。
・・・あの蒼いすみれは誠実と愛、黄色い菫は田園の幸福、そして完全な美、白い菫は無邪気な恋と純潔、匂う菫は控え目と羞恥心、八重咲の菫はお互いの愛情のしるし、
そしてわたしの持っている葉に包まれた菫の花束は、ひそかな恋。
・・・君は本当の心をポケットに収めておくということを知らない。
・・・あなたのおっしゃることはよくわからない。
歯に衣を着せないで、虚心坦懐に、単刀直入にずばりと言って下さらない?
・・・これは僕の一つの芸。幸福のときは装飾になって、不幸な時は鉄の扉になる。
・・・ああ、貴方のお言葉は、憂鬱なデンマークの王子ハムレットの言葉の様につれない言葉。
白百合と見まごう白皙のオフィーリアの様に星影浮かべ波立たぬ水に流されて行けと言いたいの?
あなたにとって一番高雅な楽しみは、他人を愉しませること。
貴方は社交界の有名人や多くの名立たる指揮者に実力を認められ、
貴方の力次第で名声を買うことができるようになったはず。
貴方にとって憂鬱が喜びの領域を踏み荒らす時代は、もうとっくに過ぎ去ったはず。
虎視眈々と社交界に進出する男
栴檀は双葉より芳し
モーツァルトのように
若くして男はたちまち人口に膾炙する
世人の毀誉褒貶も宋襄の仁から
他の作曲家の悋気を招く招待状
琴瑟相和すと占筮されながらも
男は哀切の女の嫉妬もよそに、
名立たる伯爵夫人に寵愛される若い燕に
今宵は夜会に、明日は音楽会にと徒に中原に鹿を逐う
大理石の指揮台の上、喝采を浴び、酒を浴び、
晴れがましき玻璃のシャンデリアの下、
名声を得、寵愛を得る
しかし、禍福は糾える縄の如し
中傷は鼎の軽重を問う
同朋の作曲家が嘯く
・・・カプリッチョは伯爵夫人の若い燕、こともあろうに夜鷹とも遊ぶ漁色家
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