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「恋愛狂想曲」第二楽章・第四小節
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作詞 野馬知明 |
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「恋愛狂想曲」第二楽章・第四小節
緊褌一番、自信ありげに、かの高名な楽士の前、鯱ばって弾いた狂想曲、
リチェルカールも換骨奪胎、陳腐な曲と軽蔑すれども、
芸術を愛する心、審美の心は隠せない。
知らぬ間に螺旋の階段おり来たる。
・・・正鵠を得るとはこのこと。驥足を展ぶとはこのこと。
評価は晩餐の饗応に等しい。猫も杓子も作曲したがる当世。
わたしは近年になく、爽快な精神の麻痺に引き込まれた。
・・・そのお言葉は、鶏鳴狗盗、一知半解の徒の私を認めてくださった意のあるものですか?
・・・いかにも。
・・・ああ、ありがとうございます。これで曖昧模糊、朦朧たる酩酊の暗闇は闡明されました。
今こそ千載一遇の好機。隠忍、辛苦もそのお言葉で報われようというもの。
夜会の宵、女は男との応接の機会を得る。
男は夜会の客の快哉の声に得意満面
開口一番、用意せし巧言令色も雲散霧消
朴訥に吐露するは男の真情
・・・いつぞやの宵は無礼の至り夜の露、顰蹙買って希望は破産。
一縷の望みは楽の繋がり、この狂想曲。どうか貴方のお父様に恋のお取次ぎを。
晴れてお許しが出れば、必ずや二人は鴛鴦の契り、偕老同穴の約束。
・・・ああ、必ずお許しが出ますように。もし、連れ添うのが天の意ならば。
では、私はお父様の御許しをいただく恋の伝書鳩となりましょう。
・・・リチャルカール様、私は貴方様の見目麗しきお嬢様をいただきたいと存じます。
・・・否、それはならない。縁組には反対しない。
しかし、今はならない。婚約は、君が繁文縟礼の社交界の定評を得てから。
名を成す前の婚姻は男を堕落させる人生の墓場。呑舟の魚もこの遊惰に浸ること希ではない。
また、女は安逸の泉、金と閑のかかる高価な玩具。
自己の芸術理論を曲学阿世から避け、習慣化させるまで、旗幟鮮明となるまで、
我が宝玉、大切な娘は渡せない。
・・・分かりました。行住坐臥、その御言葉を金科玉条として、この音楽の都を征服して見せましょう。
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