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冥王の恋、或いは乙女の婚姻
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作詞 あかさてな |
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或る日、地獄(タルタロス)に投げ込まれ足る巨神(ギガース)達が
一際暴れに暴れ足りければ
世界は揺れに揺れ、地が引き裂かれん
其の裂け目は遥か冥府にまで及ばん
事、大事と憂慮し足る冥王ハーデースは
黒馬に曳かれ足る馬車を駆り地上に出でん
其の様子を見たる女神アプロディーテーは
息子のエロースを唆しこう言い放った
あれをご覧、あそこに見えるは冷徹無慈悲なる
冥府の支配者、偉大なるハーデース其の者に在らん
あの偉大なる王に恋をもたらせば
我等の権能の偉大さを誠に世に示す事出来よう
母なる女神の企みにエロースも心動かされ
恋をもたらす黄金の矢をハーデースに向かって放たん
時は折しも、エンナの谷にて一人の乙女が仲良きニュムペー達と花摘に興じて居た
其の乙女、農耕の女神デーメーテールの一人娘、名をペルセポネーと言う
花摘に夢中に為りしけりペルセポネーは一人、仲間達とはぐれる
其の場を通り掛かったハーデースは乙女を一目見た瞬間恋に落ち
其の儘乙女を拐い冥府へと連れ去らん
乙女の泣き叫ぶ声は誰にも届く事叶わず
ただ一人此の一部始終を見届け足る者在り
其の者の名は魔術の女神、三叉路のヘカテーと言う
愛する一人娘を失い悲嘆に暮れたデーメーテールは
世界中を探して回るもペルセポネーを見付ける事叶わず
女神を不憫に思いしヘカテーは女神にこう告げた
偉大なるデーメーテール様、貴女の愛娘は冥府の王に拐われました
然し、最後には毅然とし、冥王に嫁ぐ事を由とされました
此の事実を知ったデーメーテールは偉大なる神々の王ゼウスに直談判された
若し可愛い我が娘を冥府より帰さなければ私は我が勤めを放棄しましょう
そうなれば大地は荒れ作物は実らず、人々は飢え神殿に捧げる供物も無くなりましょう
事は大事と王ゼウスも困り果て遣いの神ヘルメースを冥府へと送った
ヘルメースより王ゼウスの詔(みことのり)を聞いたハーデースはペルセポネーを手放す事とした
然し時既に遅く乙女は冥府の柘榴を四つ食して居た
冥府の理には其処に成る物食した者は冥府の者為りとある
此れを聞き知った王ゼウスは逡巡した挙げ句こう裁定を下された
ペルセポネーは一年の三分の二を母なるデーメーテールと共に過ごし
残る三分の一を冥府にてハーデースと共に過ごすもの為りと
こうして此の世には季節が生じた
花咲き誇れる春、植物が青々と茂る夏、草木が枯れ果てる不毛なる冬
こうしてペルセポネーは母なるデーメーテールと共に春と夏を過ごし
残る冬を冥府にてハーデースと共に過ごす事と相成った
此の様にして穀物の種子の女神なるペルセポネー
冥府の王ハーデースの妃と成り共に冥府を支配する者に成りにけり
ハーデースは愛するペルセポネーを大切にしたと云う
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