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ある夜の対話
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作詞 悲喜仔 |
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その男と私は屋根の上で 束の間の休息を取っていた。
南の地平線ぎりぎりの所に オレンジ色の満月が見えた。
「あら、今夜は随分と大きな月が出てるのね」
「そうか?大きさ自体は変わらんだろう」
「感性の乏しい人。不思議よねぇ、空の高い場所にあるときはちっぽけに見えるのに、低いとどうしてあんなに大きく見えるのかしら?」
「地上の建造物のせいだろ。周りに比べるものが何もないから小さく見えるだけで、見慣れた建物と並べるとその大きさがわかるんだろうよ」
「所詮人間の造った物なんて及びもつかないって事かしら」
「そうかもな」
彼は寝転んだ。私は暫く月を見つめ、ふともの思いにふけった。
「どっちがいいのかしら?相手にもならない周りの傍で自分の大きさを見せ付けるのと、比べるものも縛りも何もない場所で、孤独で自由に生きるのと」
彼は考え込んだが、やがてそっと呟いた。
「―――――」
私たちは再び空を見た。月は既に高く上り、白く美しく輝いていた。
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