|
|
|
盲目の女神
|
作詞 J'Soul (ジュゾウル) |
|
ふらついた身体を支え辿り着いたのは 酷く寂れた家だった
もうろうとする意識の中で伸ばした腕は 安らぎの中の温もりを掴んだ気がした
うっすらと目を開けて飛び込んで来たものは 安っぽい色の天井と
汚れて擦り切れたたった一枚のシーツだった
唐突に響いた声が自分を呼ぶものだと気づき
ゆっくりと振り向いたその先には 見知らぬ女が立っていた
汚れた服に灰色の髪 ひび割れた指に閉ざされた瞳
薄暗い部屋に柔らかな声 盲目の女神がそこにいた…
とりあえず立ち上がろうと力を込めてみても 足は痺れて動かなくて
『無理はしないで下さい』と言う彼女の声 本当に純粋な優しさに触れたようで
思わず『ありがとう』と彼女に伝えると 少し微笑み『はい』と言った
それが二人が交わす最初で最後の真実だった
平然と瞳を閉じて近付いてきた彼女に
顔を見られない事に安堵して 紳士を装い問いかけた
『助けてくれてどうもありがとう』 そして『今は何時(いつ)』で『此処は何処です』と
一つずつ答える彼女の声 男が逃亡者だとも知らないで…
彼女は色が見えないと言った 彼女は光を感じないと言った
彼女は自分を知らないと言った だけど彼女は世界を心に描くのだと言った…
傷ついた身体を使い逃げ続けるには 少し時間が必要だった
何も聞かずに彼女は包帯を差し出した 『ごめんなさい傷口が私には見えません』と
言い残し部屋を出た彼女を見送って 目をやったシーツの中には
真っ赤に染まった彼女の服が重なっていた
呆然と声もなく固まっていた男のもとへと
彼女が水と布を持ってきた やけに綺麗で真っ白な布
確かめなくても何か理解する それは刻まれた純白のドレス
驚きで顔から剥がれた仮面が 彼女に見えない事を願った…
彼女の瞳はガラスの様だった 彼女の心は少女のままだった
彼女の願いは平凡なものだった それは彼女の愛する人と共に過ごす日々だった…
幾度かの昼を過ごした 彼女の食卓に並んでいたものは
味のしない固いパンと 彼女が川で汲んできた水と 適当に切られた細く痩せた野菜だけだった
彼女はいつも笑っていた 男は少し動ける様になっていた…
幾度目かの夜に彼女は しばらく前に母が死んだと小さく言った
だからやがて私も消えるでしょうと とても自然に彼女は言った
男は逃亡者だった だから傷が癒えれば再び逃げるつもりだった 微笑みを残して
彼女は諦観者だった だから何も聞かずに残された日を笑っていた 夢を抱きながら
男は愛を知らなかった だから何も言えなかった…
二人は『幸せ』と呼べる時間を過ごした たとえそれが仮初めだとしても
何も言えない苦しみは男を苛んだ ただもう少しだけこのままでいたいと祈った
信じるべき神など記憶にはなかった だから彼女の瞳に祈った
見た事もないほど美しい透明な宝石へと
男の足はやがて元通り走れる様になった
二人に近付いていた別れを誤魔化す様に 笑顔を飾り付けた最後の晩餐を囲もうと−
唐突に蹴破られた二人だけの扉 押し寄せる無感情の『暴力』と言う名の『正義』
世界が見えない彼女の目の前で 世界を敵にした男の罪が男を捕らえた…!
彼女は色が見えないと言った 彼女は光を感じないと言った
彼女は自分を知らないと言った だけど彼女は世界を心に描くのだと言った…
彼女の瞳はガラスの様だった 彼女の心は少女のままだった
彼女の願いは平凡なものだった それは彼女の愛する人と共に過ごす日々だった…
逃亡者は愛に囚われて 盲目の女神はまた一人闇の中に残された
それが世界の選んだ結末だった…
|
|
|