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カナブン父ちゃん
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作詞 橙 ヨシヒコ |
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一匹の カナブンが
僕の袖に 降り立った
もともと、このくらいじゃ
なんとも思わないけれど
つい先日、父ちゃんが
死んだばかりの 僕だから
もしかしたら これは 父ちゃんが
来たんじゃないか、と 思ってしまって
死に目にも会えなかったから
なんの話もできなかった
後悔、ただ後悔で
夜空を 見上げていた
小さい頃から マンガ少年で
いまの言い方だと”中二病”って言うのかな
だから もしも このカナブンが
人間の言葉を話したって 驚きはしない
神様が遣わしてくれた
それが このカナブンだ、と言うのなら
イタい目で見られてもいい
ずっと話していたいよ
ピンとこないままで 枕経
涙なんて 出やしない
これからのスケジュールだけが
淡々と決められていく
寝ずの番の 真夜中に
父ちゃんの顔を眺めていた
寝ているだけのようで
死んでいるとも思えない
このまま 泣かないまま終われば
薄情息子になるのかな
ウソ泣きでも 泣いておけば
いいかな、とか 思っていたけれど
そんなのは 要らぬ心配だった
それまでの遅れを取り返すように
”最後のお別れ”の時になって
むしろ 恥ずかしいくらいに泣いた
気が付けば 父ちゃんの顔に
涙の粒が落ちていた
鼻水が出るくらい泣いたのは
子供の頃 以来かな
ひと段落が ついた夜
タバコを吸って ぼんやりしていたら
どこからともなく カナブンが
僕の袖に 降り立った
袖のあたりを うろうろしている
カナブンは ただのカナブンなのか
頭が おかしくなったのかな
こいつが 父ちゃんに思えてきて
カナブンが 急に しゃべりだして
お前の父ちゃんだ、と 名乗るのなら
たぶん、自然に受け入れると思う
そうであればいいのに、とさえ
神様が遣わしてくれた
それが このカナブンだと言うのなら
イタい目で見られてもいい
ずっと話していたいよ
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