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Gunner
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作詞 空流 |
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さて ようやく暗い新月の夜が明け始めた
廃工場の隅 拳銃構えた俺は犯罪者
十七、八ぐらいの真面目そうな娘を人質に
幾許かの自由を求めて時を待つ
道端で拾ったその娘は酷い顔をしていて
瞳は虚ろ 生きる事に疲れたと
「生命の重さが理解出来ない所は似てるね」
だなんて涙溜めた目で言いやがった
驚いた 濡れた小汚い顔で
笑いもせず良くこんなジョークが言えたもんだ
しかも「死にたい」なんて逃げやがる
今 手の中に冷たくゴツリと響くこの拳銃を
俺は構えている 何を恐れているのか?
まさか 幾つの生命をこの手で散らしたんだ?
俺は笑っている そう、快楽になったはずだ
俺を支えて来た色んなものが そう言っている
やがて お天道様が南から鋭い光を刺し込んで
汗ばむ手に 握られたままの鋼鉄の塊
小さく開いた口の向かう先には俯く娘
「黙ってろ」と言ったら泣き出して 逆に鬱陶しい
ただでさえ 濡れた小汚い顔と
擦れた声で言った言葉が纏わり付いて来るのに
「死にたい」その言葉の意味が 目の前でのた打ち回る
ああ まるでクシャミが出そうで出ない時みたいだ
俺は苛立っている …だったら殺してしまえばいい
だが 銃爪にかかったままの指は押し退けられる
俺は迷っている? 実態の無い何かに挟まれて
俺を支えて来たはずの色んなものが揺るぎ始める
相変らず虚ろな眼が宙を泳ぐ
やがて娘は 涙に霞んだ声で呟いた
「死にたい…」頭を抱えて呟いた
…聞こえなければ良かったのにと 後になって思ったが
その時 俺は理解した ひとつの「死」が示す 本当の意味
殺してやれる気がした その涙を! その苦痛を!
…ホラ 今だけは弱音を吐いても許してやるよ
銃口を下ろし 余所見をしててやるから
ただし 俺が三度溜め息を吐いたら それが合図だ
黙って顔を上げろ 涙も拭わないまま
そうしたら 濡れた小汚い顔に
とびきり熱くて重い弾丸をぶち込んでやる
「死にたい」その言葉の意味を 置き去りにしないために
さぁ 今までに無い最凶の標的を目の前にして
俺は震えている …当たらないかも知れない
だが マイナスの感情は集中力を鈍らせるだけ
俺は狙いを定める もしも、もしも当たらなければ
俺を支えて来たくだらないものが また蔓延るだけの事
数日の後 炎天下 廃工場の隅
身を隠す俺達の影は 間も無く踏み荒らされる様だ
腕の中で俺を見つめているのは 濡れた綺麗な笑顔の娘
外から響く 怒鳴る様な声 赤い閃光に
二人 顔を見合わせて笑った
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