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深紅の鴉
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作詞 流世 |
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そのカラスは
自分の姿が大嫌いで
ただ黒いだけの不吉な姿と恥じて生きてた
「死を思わせる自分は
なんておぞましいのだろう
これなら子供に石を投げつけられても
しかたない」
哀しい考えに囚われたカラスは
仲間にも嘲笑われて
カラスも死肉をあさる仲間を
いつも避けていた
しかし
ある日 ある時 ある森で
カラスは紅色の花にあった
カラスは思った
「自分とは違い
なんて美しい生き物なのだろう」と
瑞々しく
夜露が残る花弁もなんと輝いていることか
新緑の世界で
凛々しく咲き誇っている花に
カラスは一目で
恋に落ちた
「闇の鳥さん わたしは薔薇というの
あなたはなんていうの?」
薔薇の声は細く優しく
森とカラスの心に染み入った
そしてカラスと薔薇は木々に囲まれて
ささやかな時間(とき)を過ごした
けれど夏の終わりに出逢った薔薇の季節は短くて
冬が始まるころ 薔薇は別れを告げた
「鮮やかなわたしをすきになってくれたあなたに
色褪せたわたしの姿は見せられない」
雪まじりの雨は涙のようで
たとえ枯れ果てても自分は傍を離れない
だってあなたは自分が醜くても
闇夜に光る星のようだといってくれたじゃないか
こんなわたしをすきだといってくれたあなたから
どうして離れることができる?
ある朝
薔薇は赤茶に変わったその身に
霜を受けて
氷の花となった
カラスはどんな夜にも朝にも耐え
薔薇の傍を離れなかった
冷たい薔薇に
霜が解けて濡れた漆黒の羽が近付く
渇いても身を守る棘はそのままに
カラスの羽は傷ついた
「いつまでも いつまでも傍にいよう
たとえあなたは枯れてしまっても
こんなにも美しい
わたしの血はもう一度 あなたを赫く染める」
白灰の雪がふる日
カラスは薔薇と同じく氷となる
雪が目元に
まるで涙のように
薔薇を抱きしめ続けたカラスの腕は
深紅の羽だった
その赫は薔薇を再び咲き誇らせた
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